妊娠
不妊治療の研究により妊娠の確率が上がることは、子どもを望む人々の希望でもあります。その思いに応えるべく、日本の不妊治療は遺伝子レベルでの進歩をとげています。今回は、臨床試験段階の治療方法も含め、不妊治療の最先端についてお話ししていきます。
不妊治療の歴史~1949年のはじまりから現在まで
不妊治療の歴史は長く、日本ではじめて人口受精による子どもが誕生したのは、今から70年前の1949年でした。その後、1983年に高度生殖補助医療(ART)のひとつである体外受精での出産が報告されています。
日本産婦人科学会の最新の報告によると、平成28年に体外受精で生まれた子どもの数は5万4110人、前年より3109人増えて過去最多でした。その年に生まれた約18人に1人が、体外受精だったということになります。
高度生殖補助医療による出生児が年々増加している背景には、著しい不妊治療の進歩があります。人工受精や体外受精、受精卵や精子の凍結保存は、その言葉だけでも、どのような治療なのかをイメージ出来るほど一般的になってきたのではないでしょうか。
不妊治療の最前線① 着料率をあげる遺伝子レベルの治療
最先端の不妊治療では、単純に「受精卵を作りだす」ところから更に一歩ふみこんだものになっています。妊娠のメカニズムを、より緻密に研究した治療が行われているのです。
① 腹膣鏡手術・・・内視鏡をつかって、子宮や卵巣、卵管の状態を直接確認することで、不妊の原因を調べて妊娠しやすい体に導くというものです。不妊治療の新しい手段として、導入するクリニックが増えてきています。
② 胚盤胞移植・・・着床率を上げるために、ここ10年で技術が向上した治療のひとつです。ARTによって作られた受精卵を培養し、着床段階の「胚盤胞」まで育ててから子宮に戻す方法です。
③ アシステッド・ハッチング(AH)・・・発育が進んだ受精卵は、卵をとりまく「透明帯」という殻を突き破って大きくなっていきます。しかし、透明帯が硬かったり厚かったりすると、それが破れずに発育が止まってしまいます。AHによって透明帯の一部を切り開いたり、全て取りのぞいたりして受精卵の発育を補助するという治療です。
④ 子宮内膜着床能(ERA)検査・・・受精卵が着床するには、子宮の中が着床に最適な状態である必要があります。子宮内膜を採取することで、着床のタイミングを遺伝子レベルで調べる検査です。海外の調査では、ERAによって妊娠確率が飛躍的に向上したという報告もあります。
不妊治療の最前線② 臨床研究段階の治療
次にご紹介する2つの治療は、まだ臨床試験段階のものですが、新しい治療法として、今後一般的になる可能性はあります。
① 着床前スクリーニング・・・受精卵の段階で異常が認められるものは、着床に至る確率が低いと言われています。着床前の受精卵の中から正常なものを選び出して子宮に戻すことで、着床率を上げるというものです。日本産科婦人科学会が臨床研究計画をすすめているものの、今のところ日本では認められていません。
② 子宮移植・・・病気などのさまざまな理由で子宮を失った人に対し、第三者から子宮を移植することで、自ら妊娠・出産できるようにするものです。
子宮移植は、これまで代理出産に頼らざるをえなかった人々への新たな治療法として注目されています。日本以外の国では、子宮移植から出産までいたったケースが報告されています。しかし、日本の臓器移植法では子宮の提供を認めておらず、現段階では臨床準備段階です。
最後に
医療の発展により、今後も不妊治療には新しい選択肢が与えられることになるでしょう。命が誕生する瞬間に立ち会える人を増やすため、不妊治療は今日も進歩を続けています。
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